企業研究者が学会発表でネットワーキングを成功させる方法
はじめに
企業の技術・研究開発部門に所属されるマネージャー層の皆様にとって、外部との連携強化や新たな共同研究パートナーの探索は、事業推進における重要な課題の一つかと存じます。学会や技術セミナーへの参加は、研究成果の発表や最新情報の収集だけでなく、将来の共同研究や技術提携に繋がる人脈を築くための貴重な機会です。特に、自ら研究発表を行うことは、参加者からの注目を集めやすく、効果的なネットワーキングの出発点となり得ます。
本記事では、学会発表を単なる研究報告の場に留めず、戦略的にネットワーキングを成功させ、共同研究や情報交換の機会を最大限に引き出すための具体的な方法論を提供いたします。多忙な皆様が、限られた時間の中で効率的に有益な繋がりを築かれる一助となれば幸いです。
学会発表がネットワーキングに有効な理由
学会における研究発表は、様々な立場の人々と繋がる上で非常に有利な機会です。その主な理由として、以下の点が挙げられます。
- 高い注目度: 発表者は聴衆の注目を集めやすく、自身の専門性や所属機関の技術力を効果的にアピールできます。
- 共通の関心: 発表を聞きに来る聴衆は、そのテーマに関心を持つ研究者や技術者、企業関係者です。既に共通の基盤があるため、その後のコミュニケーションが円滑に進みやすい傾向があります。
- 自社の強みや課題の提示: 発表を通じて、自社の研究内容や解決したい技術的課題の一部を示唆することで、共感や連携の可能性を持つ相手を引きつけることができます。
- 信頼性の醸成: 発表内容は、聴衆に対して発表者の専門性や研究に対する真摯な姿勢を示すことになります。これが信頼関係構築の第一歩となります。
これらの特性を理解し、発表の準備から実施、そして発表後のフォローアップまでを戦略的に行うことが、学会発表をネットワーキングの機会として最大限に活かす鍵となります。
発表前の戦略的な準備
学会発表をネットワーキングの機会として成功させるためには、事前の準備が不可欠です。
1. ネットワーキングの目標設定
漫然と参加するのではなく、「どのような分野の専門家と繋がりたいか」「どのような技術や課題に関する情報を得たいか」「将来的にどのような企業や研究機関と共同研究の可能性があるか」など、具体的な目標を設定します。これにより、誰に注目し、どのようなコミュニケーションをとるべきか明確になります。
2. ターゲット候補のリストアップ
参加者リスト、プログラム、アブストラクト集などを事前に確認し、自身の研究テーマや目標に関連性の高い発表者や参加者を特定します。所属機関、役職、発表内容などを基に、アプローチしたいターゲットのリストを作成します。可能であれば、所属機関のウェブサイトなどで、対象者の研究内容や経歴を把握しておくと、当日の会話がスムーズに進みます。
3. 発表内容へのネットワーキング要素の組み込み
発表スライドの最後に、自社の研究開発方針や、現在興味を持っている技術分野、共同研究や技術パートナーシップに関する可能性について示唆するスライドを加えることを検討します。「このような分野にご関心のある方、情報交換や議論にご興味があれば、ぜひお声がけください」といったメッセージは、聴衆が発表者へ接触するハードルを下げる効果があります。ただし、発表内容との関連性を保ち、露骨な宣伝にならないよう配慮が必要です。
4. コミュニケーションツールの準備
名刺は十分に用意します。所属、氏名、役職、連絡先(メールアドレス、所属部署の電話番号など)は必須情報です。必要に応じて、研究内容の概要や自社の技術を紹介する簡単な資料、またはウェブサイトへのリンクを記載したカードなどを用意することも有効です。連絡先交換をスムーズに行うためのツール(例えば、連絡先交換アプリやQRコードなど)の準備も検討に値します。
発表当日の実践方法
発表本番および当日の行動は、ネットワーキングの成否に直結します。
1. 発表中の工夫
発表は、自身の研究内容だけでなく、発表者の人となりやコミュニケーション能力を印象づける機会でもあります。 * 明瞭かつ聞き取りやすい話し方: 聴衆に内容を正確に伝え、関心を持ってもらうための基本です。 * 丁寧な質疑応答: 質問には誠実かつ専門的に回答します。質問者の所属や氏名を確認し、可能であれば質問内容に関連する補足情報を提供するなど、対話の糸口を探ることも重要です。質疑応答後には、個別に話す時間を持つことを提案しても良いでしょう。
2. 発表後の立ち振る舞い
発表終了後が、最も直接的なネットワーキングの機会です。 * 発表会場での対応: 発表後、会場の出口付近や発表者が待機するエリアに立ち、質問やコメントのために近づいてくる聴衆に対応します。関心を示してくれた方には積極的に話しかけ、短時間で自身の関心や目的を伝えます。 * 名刺交換と情報交換: 相手から名刺をいただいた際は、必ず自身の名刺を渡し、感謝の言葉を伝えます。可能であれば、名刺に会話の内容に関するメモを書き込む(例: 「〇〇技術に関心」など)と、後日のフォローアップに役立ちます。具体的な研究内容や課題について、短く効果的に意見交換を行います。 * 休憩時間や懇親会の活用: 自身の発表時間以外も、積極的に休憩時間や懇親会に参加します。他の発表者や参加者と交流し、自身の発表内容に触れつつ、相手の研究に関心を示すことで、会話を広げます。
3. 印象に残るコミュニケーション
多くの人が行き交う中で、印象に残るコミュニケーションを心がけます。 * 具体的かつ簡潔に: 自身の研究や関心事を、専門用語を避けつつ、具体的かつ簡潔に伝えます。 * 相手への関心を示す: 相手の研究内容や所属機関について質問し、関心を示すことで、対話が深まります。 * 共通点を探す: 意外な共通点(出身大学、趣味など)が見つかることもあり、これが人間関係を築く上で有効な場合があります。
発表後の効果的なフォローアップ
学会が終わってからのフォローアップが、得られた繋がりを実際の成果に繋げるための最も重要なステップです。
1. 名刺整理と速やかな連絡
交換した名刺を整理し、会話の内容を思い出せるうちにメモを追加します。特に重要と感じた相手には、学会終了後速やかにメールなどで連絡を取ります。メールの内容は、学会での再会の感謝、具体的な会話内容の振り返り、今後の情報交換や可能性のある連携に関する提案などが考えられます。
2. 情報交換や連携提案の具体化
単なる挨拶に終わらず、具体的な情報交換や連携の提案に繋げます。例えば、議論になった課題について追加情報を提供したり、自社の持つ技術で相手の研究に貢献できる可能性を示唆したりします。共同研究の可能性があれば、具体的な研究テーマや役割分担について提案する機会を設定することも検討します。
3. 関係性の維持
一度築いた繋がりは、定期的なコンタクトによって維持することが重要です。関連するニュースや研究成果が公開された際に情報共有を行う、次の学会での再会を約束するなど、様々な方法で関係を維持し、将来的な連携の機会を育てていきます。
成功のための追加ヒント
- 所属機関のアピール: 自身の研究だけでなく、所属する企業全体の技術力や研究開発体制について、簡潔に紹介できるように準備しておくと、より大きな連携に繋がる可能性があります。
- 学会全体の活用: 自身の発表時間だけでなく、他のセッションへの参加、企業展示ブースの見学なども、新たな情報や人脈を得る機会となります。
- チームでの戦略: 複数のメンバーが学会に参加する場合は、それぞれが異なるセッションを担当するなど、組織全体で効率的に情報を収集し、ネットワーキングを行う戦略を立てることも有効です。
結論
学会発表は、企業研究開発マネージャーが研究成果を共有するだけでなく、外部との貴重な接点を生み出す戦略的な機会です。事前の目標設定とターゲット選定、発表内容への工夫、当日の積極的なコミュニケーション、そして丁寧なフォローアップを行うことで、単なる情報交換に留まらない、共同研究や技術提携に繋がる強固な人脈を築くことが可能となります。
これらの方法論を実践いただくことで、皆様の研究開発活動がさらに促進され、新たなイノベーション創出の一助となることを願っております。