企業研究者のためのイベント後フォローアップ戦略:共同研究への道筋
導入:研究イベント後の関係構築が拓く新たな可能性
企業の技術・研究開発部門に所属するマネージャーの皆様にとって、学会やセミナーへの参加は、最新情報の収集や新たな人脈形成の貴重な機会です。しかし、多忙な日常の中で、イベントで得た名刺が活用されずに終わってしまうケースも少なくありません。真に価値あるネットワーキングは、イベント会場での出会いだけでなく、その後の継続的な関係構築によって深まります。
本記事では、イベントで得た人脈を単なる連絡先リストに留めることなく、共同研究や技術連携といった具体的な成果へと発展させるための、効率的かつ戦略的なフォローアップ手法を解説します。企業内のリソースだけでは解決困難な課題に対し、外部パートナーとの連携を強化したいとお考えの皆様にとって、本情報が有益な指針となることを目指します。
イベント直後の迅速なフォローアップの重要性
研究イベントでの出会いを実りあるものにするためには、会期直後の対応が極めて重要です。記憶が鮮明なうちに、適切なアプローチを行うことで、相手への印象を強化し、その後の関係構築の土台を築きます。
1. 名刺情報の整理と記録の徹底
イベント終了後、速やかに名刺の整理を行い、それぞれの方と交わした会話の内容や、共通の関心事、潜在的な協力テーマなどを詳細にメモに残します。スマートフォンアプリやCRMツールを活用し、デジタルデータとして管理することで、検索性や追跡性を高めることが可能です。
- 記録すべき項目例:
- 氏名、所属、役職
- 出会った場所、イベント名
- 具体的な会話内容、相手の研究テーマや興味関心
- 自社との連携可能性や課題解決へのヒント
- 次に取りたいアクション(例: 資料送付、意見交換の依頼)
2. 初動連絡のタイミングと内容
最初の連絡は、イベント後24時間以内に行うことが理想的です。時間が経過すると、相手の記憶も薄れ、連絡の意図が伝わりにくくなる可能性があります。
- 連絡のポイント:
- 感謝の表明: イベントでの交流への感謝を伝えます。
- 具体的な会話の引用: 記憶に残りやすいよう、特定の会話内容に触れます。
- 共通の関心事の再確認: 連携の可能性を示唆します。
- 具体的な次の一歩の提案: 関連資料の送付、より詳細な情報交換の機会の提案など、無理のない範囲で次回のコンタクトに繋がるアクションを提示します。
メール作成例:
件名:〇〇学会でのご挨拶(貴社名 氏名)
株式会社△△ 〇〇様
先日は〇〇学会にて、貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。
貴社の〇〇に関する研究に大変感銘を受けました。特に、〇〇の課題に対する貴社のアプローチは、弊社の抱える△△の課題解決に繋がる可能性を感じております。
もしよろしければ、後日改めて、もう少し具体的な意見交換の機会を頂戴できますと幸いです。
まずは、貴社の研究に関する詳細を拝見したく、関連情報などございましたらご教示いただけますでしょうか。
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
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署名
関係深化のための効果的なコミュニケーション戦略
初回の連絡が成功したら、次はその関係をどのように深め、共同研究へと発展させるかを戦略的に考えます。
1. パーソナライズされた情報提供と質問
一方的な情報提供ではなく、相手の研究テーマや関心事に合わせた情報を提供することで、会話の質を高めます。例えば、自社の関連技術や論文、業界レポートなどを共有し、相手の意見を求める形が有効です。
- 効果的な質問例:
- 「貴社の〇〇技術に関して、現状で最も注力されている点はどちらになりますでしょうか。」
- 「弊社の△△に関する研究について、〇〇様の視点からどのような応用可能性が考えられますか。」
- 「今後の業界動向を踏まえ、貴社が特に注目されている技術トレンドはございますか。」
2. 定期的な情報交換の機会創出
一度きりのやり取りで終わらせず、定期的な情報交換の機会を創出します。ランチミーティング、オンラインでの意見交換、社内セミナーへの招待など、相手の状況に合わせて柔軟な方法を提案します。この際、常に具体的な目的意識を持ち、互いに有益な情報交換となるよう努めることが重要です。
3. 共通の課題解決に向けた連携の模索
企業研究開発マネージャーとして、自社の課題解決に資するパートナーシップの可能性を常に模索します。相手との対話の中で、互いの強みを活かせる共通の課題や、相乗効果を生み出せる領域を見極めることが肝要です。
共同研究・連携への具体的なステップ
関係が深まり、互いの信頼が醸成されてきた段階で、共同研究や具体的な技術連携の可能性を具体的に検討します。
1. 潜在的なニーズの探り方
直接的に共同研究を提案する前に、相手が現在抱えている課題や、将来的に取り組みたいと考えているテーマについて、ヒアリングを行います。これにより、自社の技術やリソースが、相手のどのようなニーズに応えられるかを明確にします。
2. 小規模な情報交換や意見交換から始める
いきなり大規模な共同研究を提案するのではなく、まずはテーマを絞った小規模な情報交換会や、概念実証(PoC)の検討など、比較的リスクの低い形で連携を開始することを提案します。これにより、互いの研究文化や進め方を理解し、円滑な共同研究への移行を図ります。
3. 具体的な提案書の作成と共有
連携の可能性が見えてきたら、具体的な提案書を作成し、共有します。この際、以下の要素を盛り込むと良いでしょう。
- 連携の目的と目標: 何を達成したいのかを明確にします。
- 各社の役割と貢献: 互いがどのようなリソースや専門知識を提供するかを記述します。
- 期待される成果: 共同研究によって得られる具体的なメリットを提示します。
- スケジュールと予算(概算): 実現可能性を示すための基本的な計画を提示します。
長期的な視点での人脈育成
一度築かれた関係は、継続的な努力によってさらに価値を高めます。単発のプロジェクトで終わらせず、長期的な視点での人脈育成を心がけることが、企業の持続的なイノベーションに繋がります。定期的な情報共有、業界イベントでの再会、時には個人的な交流を通じて、信頼関係を維持・深化させることが、将来的な新たな連携機会を生み出す基盤となります。
結論
学会やセミナーでの出会いは、企業の研究開発における新たな可能性の扉を開く契機となります。しかし、その扉を開き、具体的な成果へと繋げるためには、戦略的かつ継続的なフォローアップが不可欠です。本記事でご紹介した手法を実践することで、皆様が研究イベントで得た貴重な人脈を最大限に活用し、共同研究や技術連携を通じて、自社の研究開発課題を解決し、新たな価値を創造されることを期待いたします。